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低気圧環境という制約を有さない非平衡大気圧プラズマは、液体、生体などの多様な媒質に対して照射が可能であり、その界面に生じる相互作用の解明は学術、応用の両面から必須である。本研究では図1に示した、液体電極と希ガス流を用いた大気圧直流グロー放電を対象として、非平衡プラズマと液体が接する場に形成される、プラズマ気液界面における相互作用の解明を目指している。このような系を対象とする理由として、
・希ガス流の利用によって大気中で安定したプラズマ、及び、プラズマ-液体界面を形成することができる。
・印加電圧の極性や電流値などの外部パラメータを変化させることで、液面への電子、またはイオン照射の影響を評価できる。
・印加電圧をパルス変調することで熱や反応時定数の影響を評価できる。
といったことが挙げられる。すなわち、安定なプラズマ-液体界面を能動的に制御しながら、その相互作用を詳細に検証することができる。一方、応用面に視点を移したとき、プラズマから見れば液体電極は新たな材料源であり、また、液体から見ればプラズマはactiveな電極であると見なすことができる。したがって、新しい材料科学や分析化学、電気化学への展開が期待される。
本研究の目的は、上記の液体電極と希ガス流を用いた大気圧直流グロー放電を対象として、実験、及び、数値シミュレーションによって、プラズマ気液界面での相互作用を解明することである。
大気圧プラズマに限らず,放電プラズマ中の荷電粒子(電子・イオン)やラジカルの計測には,しばしば技術的,または経済的困難さが生じる。特に,大気圧プラズマでは放電自体が局所的となったり,化学反応が非常に複雑かつ高速となるケースがおおく,その計測は極めて困難となる。このような場合,適切にモデル化されたプラズマシミュレーションは,プラズマ中の諸パラメータや諸現象を手に取るように与えてくれるので,現象の理解という点で極めて有利である。また,昨今の計算機の高速化に伴い,シミュレーションは予測,デザインといった段階へ近づいている。
当研究室では,流体モデルをベースとし,様々なレベルの大気圧非平衡プラズマのシミュレーションを行っている。一つは,誘電体バリア放電によるNO酸化過程のシミュレーションである。誘電体バリア放電内には多数のストリーマが生成され,この中でラジカルが発生する。我々は,誘電体バリア放電内のシングルフィラメントのシミュレーションを実施し,これよりラジカル生成量を評価している。また,この結果を用いて,NO酸化過程を調べている。
マイクロプラズマは代表的な大気圧非平衡プラズマであるが,そのサイズゆえに計測には困難が生じる。当研究室では各種のマイクロプラズマのシミュレーションを実施し,マイクロプラズマの物理・化学的特性を明らかにしている。特に,最近は,気体動力学を考慮したマイクロプラズマのシミュレーションに力を入れている。これは,プラズマによるガスの加熱や流れの発生,これによるガス分子密度の局所的な変化,あるいは外部気流による熱の輸送といった,プラズマとガスの相互作用を考慮したものである。
また,大気圧グロー放電にシミュレーションを実施し,その生成原理を明らかにしている。
コロナ放電や誘電体バリア放電は代表的な大気圧非平衡プラズマです。プラズマ中の高エネルギー電子が周囲のガス分子を励起/解離することでラジカルを生成し,
このラジカル反応を起点として化学反応が進行します。すなわち,大気圧非平衡プラズマは常温の反応場を提供し,この反応場を環境浄化技術へと適用します。
燃焼に伴って生成される窒素酸化物(NOx)は光化学スモッグ原因物質であり,その排出規制が強化されています。NOxの除去法にはいくつかの既存技術がありますが,
ディーゼルエンジン車などの移動発生源に対する適切なNOx除去技術はありません。本研究では,プラズマ化学反応と触媒反応を組み合わせたNOx処理法について研究をして
います。炭化水素を還元剤とした選択接触還元法(触媒)によるNOx処理では350℃以上の触媒温度でないと還元反応が起こりません。これに対し,放電プラズマ
で前処理すると200℃程度の触媒温度でも還元反応が起こるようになります。すなわち,プラズマ化学反応と触媒反応が相乗的に作用し,新しい機能を出現しています。
我々は,放電プラズマと選択接触還元法を併用したNOx処理において,触媒温度やガスの組成をパラメータとしてその反応過程を研究し,より効率的な系の実現を
目指しています。また,プラズマ内部での反応過程の詳細を調べるために,ストリーマの形成までをも模擬したNO酸化過程のシミュレーションコードの開発を
行っています。なお,プラズマと触媒を併用したプロセスは,NOx除去のみならず,揮発性有機溶剤などの多くの有害ガス状物質の分解で有望な手法です。
廃水処理に関しては,これまで以上に難分解性物質の低減が要求されており,この難分解性物質の分解を目的として促進酸化法(Advanced Oxidation
Process)が注目を集めております。 促進酸化法とは,O3/UV/H2O2,あるいは光触媒などを組み合わせてOHラジカルを生成し,
このOHラジカルの高い反応性を利用して 難分解性物質を分解するものです。 本研究では,気体放電によって発生するOHラジカルに注目しています。
最初に,水面上にコロナ放電を発生し,この時に生成されるOHラジカルを利用した難分解性物質の分解を試みました。また,水面上の広い範囲で均一にOHラジカルを供給することを
目的として,水蒸気圧程度まで減圧した上で,水面上にグロー放電を発生し,廃水処理を行いました。
パッシェンの法則として知られるように,気体の破壊電圧はpd積(圧力p×電極間距離d)で規格化されます。したがって,電極間隔を100μm以下程度まで短くすれば,比較的低い電圧下,大気圧付近で安定したプラズマが得られます。ここでは電極間距離を例に挙げましたが,マイクロ波や誘導性プラズマでも同様の傾向があります。大気圧下では電離が急峻に起こるため,マイクロプラズマ中のプラズマ密度は高くなり,また,これによって生成されるラジカルや発光種の密度も高くなります。すなわち,マイクロプラズマは極めて活性な反応場として,強い光源として,あるいは,導体として機能します。
本研究では,実験とシミュレーションから,マイクロプラズマの放電基礎特性を中心に研究しています。実験では,マイクロギャップを有する共面電極,または平行平板電極型誘電体バリア放電の放電基礎特性について,ギャップ距離や圧力,印加電圧の周波数をパラメータとして調べています。また,細管に希ガスを流したときに発生するマイクロプラズマのプラズマジェットについても研究しています。
マイクロプラズマはサイズが小さいために計測可能な対象が制限を受けます。我々は,流体近似モデルをベースとしたシミュレーションからもマイクロプラズマの特性を明らかにしています。一つは高周波励起マイクロプラズマであり,特に,気体動力学(プラズマによるガスの加熱や流れの発生など)を考慮したマイクロプラズマの解析の取り組んでおります。また,高速ガス流下の大気圧直流マイクロプラズマのシミュレーションについても取り組んでおります。
典型的な誘電体バリア放電リアクタに,大気圧ヘリウムを導入して交流電圧を印加するとグロー状の均一な放電が容易に得られます。これは上智大学の小駒益弘教授のグループによって開発された日本発の技術で,大気圧グロー放電(APG,またはAPGD)と呼ばれています。大気圧と均一性を活かした表面処理技術として,研究,実用化ともに急速に広がりを見せ,特に,大面積の表面処理,粉体や繊維などの真空装置に馴染まない材料の表面処理に強みを発揮しています。我々は,実験,および,シミュレーションによって,この放電が低気圧下で得られるグロー放電と類似したものであることを示すとともに,大気圧グロー放電を得る上でのヘリウムの利点を電子輸送係数の観点から明らかにしました。ここで得られた知見を活用し,ヘリウムよりもコストの安いアルゴンでの大気圧グロー放電の安定生成について研究を進めています。
プラズマ以外にも,下記のような研究を行いました。
電気集じんは,コロナ放電によって帯電した微粒子を電界によって捕集する技術です。粒径が小さなサブミクロン粒子では帯電量が低下するために集じん効率が低下します。したがって,凝集によってサブミクロン粒子を大きくした後に集じんする必要があります。凝集は衝突による物理現象であるため,粒子の密度を高めるか,または粒子間に働く引力を利用することで,凝集頻度を高めることができます。本研究では2つのことを行いました。一つは,粒径分布を考慮したレート方程式による,微粒子の凝集過程の計算です。非帯電粒子同士,及び,両極性に帯電した微粒子に対して凝集過程を計算し,帯電微粒子の凝集の有効性を数値計算によって実証しました。二つめは,凝集係数の推定です。我々は,単に両極性帯電微粒子を空間で混在するだけでなく,ここに電界を印加して微粒子の動きをコントロールすることで凝集頻度が高まることを実験的に見出しておりました。そこで,外部電界が存在する場での両極性帯電微粒子の凝集係数を推定する方法を提案しました。
溶媒中に分散する細菌に対して,およそ10 kV/cm以上の高電界を与えると細胞膜が非可逆的に破壊されて殺菌が可能です。しかしながら,電極間隔によるものの,通常,10 kV以上の高電圧パルスの印加が必要となります。また,溶媒は抵抗としても作用するため,高電圧を印加すれば,当然,流れる電流も大きくなり,消費電力も大きくなってしまいます。本研究では電極幅0.1 mmの極短ギャップを有する電極を用いることで,低電圧化,ならびに低消費電力化を実現したパルス電界殺菌を実証しました。低電圧化は電源構成の自由度を高めることができ,パルス電界殺菌に対する周波数やパルス幅の影響も検証しました。
電気分解に際し,PbO2やSnO2などの不活性電極を陽極に用いることで電極表面に高酸化力を有するOHラジカルが生成されます。本研究では,PbO2電極表面に生成されるOHラジカルを用いたフェノールの分解実験を行い,フェノールの分解過程とその高効率化に必要なファクターを検討しました。フェノール自体は比較的分解されやすいですが,その主生成物の一つであるヒドロキノンやベンゾキノンは分解されにくく,反応系を律速しました。また,フェノール濃度が高いときにCODに対する電流効率が高く,濃縮技術と直接酸化の併用が高効率処理に有用であることを示しました。